2010年新春特集号
   
 

  

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農林抄 (論説/「食育」から農を応援しよう!)
 
   「パン業界から見た米粉の使用とその将来」<上>
       全日本パン協同組合連合会
 
<書き出し> 製パン業界に対し、小麦粉に米粉を混入してパンを製造するようにとの要請は、昭和50年代から始まり、なかなか実現しないまま時が過ぎ、ここ10数年ほど前から、農林水産省(以下「農水省」という)の支援のもと、特別な製粉技術で米の微細粉を挽き、米粉パンの製造の試みが、新潟県を中心に始まりました。その結果、小麦粉のパンとは程遠かったのですが、米粉によるパンが実現しました。製パン技術者の中には、米粉パンはパンではないとの評価もありましたが、少量、手作りではありますが、イーストを使った米粉パンが出来る可能性が確認されました。しかし、食パンでは腰折れ(ケービング)が避けられず、焼き色の焦げたパンの状態でないとできないのも事実でありました。その後、近畿農政局から『青い麦』の福盛氏に研究依頼があり、氏が1年がかりで、試作、検討を繰り返された結果、製パン機械によるライン生産の見通しがつき、その動きと連動し、近畿米粉食品推進協議会が立ち上がり、パンのみでなく広く米粉の消費を促進しようとの機運が高まり、坂本協議会会長(当時)を中心に普及のための活動が始まりました。・・・



焦 点 「普及指導員の活動事例集」
 
 
 <書き出し> 全国改良普及職員協議会が12月21日、「地域の農業を支える普及指導員の活動事例集」を制作した。内容は、@地域性ゆたかな特色ある産地づくりA技術革新による農業の発展B将来にわたる多様な担い手の育成に関する事例について、各都道府県1事例を紹介している。地方分権改革や行財政改革、さらには政権交代など農政は大転換の時代へと突入し、未曾有の不景気とともに消費者ニーズも刻々と変化している。しかし、担い手、後継者づくり、集落活動の支援がわが国農政の基幹であることには変わりなく、「普及活動指導員は農業・農村の地域課題解決におけるキーパーソン」として、その役割はより重要になる。



新年特集 「食料自給力向上へ米粉需要を創造する」<1> (季刊特集
 
   「米粉パンなどの利用に適する米粉の特性とは」<1> 
       農研機構・近畿中国四国農業研究センター
       米品質研究近中四サブチーム主任研究員 荒木悦子
 
      はじめに
      米粉(上新粉)と小麦粉の違い
      パン製造用の米粉の特徴
      図1 上新粉と小麦粉の粒子の違い
      図2 米胚乳組織の構造
      図3 米粉パン用米粉の特徴

     
つづく
 
   「100%米粉パン実現に向けた製粉新技術」<1>
       福山大学生命工学部生命栄養科学科教授 井ノ内直良
 
      農地面積の減少と食生活の変化
      容易ではない米離れ歯止め
      全国のコンビニで米粉パン販売

     
つづく
 
   「イネの機能性澱粉素材の開発と米粉利用」<1>
       九州大学大学院農学研究院教授 佐藤 光
 
      はじめに
      新たな食品としての米粉の需要
      米の持つ機能性を生かす米粉製品

     
つづく
 
   「新規米粉ビジネスの誕生と定着の課題」<1>
       NPO法人国内産米粉促進ネットワーク理事長 橋正郎
 
      政権交代後も継承される
      米粉の生産振興策
      なぜ「米の粉食」が米の過剰対策で取上げられなかったか
      米粉の微細粉・製粉技術の確立で局面打開
      米粉パンの発祥地は新潟県と近畿圏
      平成19年の食糧危機小麦価格の高騰で促進
      米粉原料米は「弁済米」から「新規需要米」に
      新規米粉政策の成否の鍵

     
つづく
 
   「にいがた発「R10プロジェクト」<1>
      〜米粉普及に向けた新潟県の取組〜
       新潟県農林水産部食品・流通課
 
      食料自給率41%の警告
      にいがた発「R10プロジェクト」提唱の背景
      にいがた発「R10プロジェクト」の創設
      にいがた発「R10プロジェクト」が目指すもの

     
つづく
 
   「米粉パン開発による地域貢献」
       山崎製パン(株)中央研究所所長 山田雄司
 
      はじめに
      山崎製パンについて
      国内のパン市場の現状
      山崎製パン鰍ノおける国産米麦の使用拡大に向けた取り組み
      図1 過去3年間の食パン構成比の変化

     
つづく
 
   「自給力向上事業は農業創造のラストチャンス」<1>
       (株)大潟村あきたこまち生産者協会代表取締役 涌井 徹
 
      農業の6次産業化
      米めんの開発
      図 あきたこまち協会の米めん工場

     
つづく
 
 
編集室
 
  2010年新年号」企画特集の統一テーマは、『食料自給力向上へ米粉需要を創造』としました。ご承知の通り、わが国の1人当たりコメ消費量は1962年度の118・3キロをピークに減少を続け、2007年度には59キロとピーク時の半分近くにまで落ち込んでいます。こうした消費実態から現在の主食用米の需要は、水田面積の6割の生産で賄うことができると試算されています。これまで政府は自給力を維持・向上させるため、残る4割の水田を生産調整田として麦・大豆などコメ以外の作目を振興してきましたが、水田作大豆は湿害対策や品質等の問題を抱えるなど、生産調整は多くの課題を解決することなく、今日まで連綿と続いてまいりました。
 旧年は、わが国憲政史上歴史的な出来事として、民主党政権が樹立されました。民主党政権では戸別所得補償が大きくクローズアップされていますが、それ以上にコメ政策の大転換と称されるのが、「自給力向上事業」です。米粉や飼料用米など新規需要米と言われる新用途が注目され、用途のバラエティ化によりコメ需要の可能性が大きく広がろうとしています。同事業では、米粉用米・飼料用米に10アール当たり8万円を助成し、小麦・大豆の助成より手厚く(経営所得安定対策を加えても小麦7万5千円、大豆6万2千円)し、新規需要米振興へと大きく方向転換しました。例えば、米粉用米を10アール当たり500キロの収量で、1キロ当たり40円程度で販売できれば、10アール当たりの収入は10万円となり、「主食用米並みの所得を確保し得る水準」がほぼ実現できます。超多収米を導入すれば農家収入は、もっと増えることになります。
 こうした政府の新政策により、大規模農家も米粉用米生産への積極的な取組みを打ち出すなど、今後は新規需要米づくりに生産が大きくシフトすると見られますが、問題はその需要を如何に創出するかにあります。しかし、業界最大手の山崎製パンでは米粉パン発売当初の08年9月期は消費者の関心の高さもあり、米粉パン・洋菓子の売上合計は1・5億円に達しましたが、09年に入ってからは不景気の影響もあって月額3〜4千万円程度にまで落ち込むなど、米粉製品は価格面で不利な状況にあります。こうした点を考えると、米粉製品は小麦粉置き換え推進へ低コスト化を追求するとともに、併せて付加価値の開発という2つの戦略が必要になります。現在の米粉製品の付加価値は、「地元産」「国産」といった安心・安全、地産地消のアピールが主体となっておりますが、最近はさらに一歩進んで、糖尿病患者向け食品として超硬質米による難消化性でんぷん「レジスタントスターチ」の開発など、“機能性”による米粉製品の新たな付加価値創造の動きが出始めてきております。
 そこで弊誌新年企画といたしまして、『食料自給力向上へ米粉需要を創造』をテーマに、食料供給力の維持・増大の鍵を握る米粉需要の創造に向けて、その戦略を構築すべく専門家や農業者の方々に、様々な角度からご提案していただきました。ここに掲載いたしました諸論考が、米需要の創出による地域の米生産振興を柱とした農業振興戦略の構築や、地方再生への一助となれば幸いです。

週刊農林編集部一同