2009年夏季特集号
   
 

  

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農林抄 (論説/「地球温暖化による我が国農業の行方)
 
   「地球温暖化が求める原点への回帰」
       農林中金総合研究所特別理事 蔦谷栄一
 
<書き出し> 地球温暖化は疑いようもない常識と化している観があるが、いくつかの本を開いてみると、話は必ずしも単純ではない。確かに1970年代半ば以降、地球温暖化が進行してきたことは事実であり、このトレンドで、あるいは加速して温暖化が進むという見方がある。しかしながら一方で、超長期的には寒冷化が基調にあり、これまで温室効果ガス等による温暖化が寒冷化を上回って気温が上昇してきたものの、すでに両者はバランスしつつあって、気温上昇はピークにあり、これからは転じて寒冷化していくという説もある。門外漢の筆者には、どちらを支持すべきか判断する能力はない。しかしながら、地球温暖化といえば一直線での気温上昇を想定しがちであるが、実態は大きくフレながら上昇傾向をたどっており、不安定であることにその特徴がある。むしろ地球温暖化としてよりも、異常気象と認識して対応していくところに、大きなポイントがあるように考える。・・・



焦 点 「衆院解散、農業政策で激突」
 
 
 麻生太郎首相は7月21日、衆院を解散した。8月の衆院選は戦後初めてで、自民、公明両党の連立政権が継続するか、民主党を中心とする新政権が誕生するかが最大の焦点となる。農業政策では、政権奪取を狙う民主党は、かねてより主張してきた「農業者戸別所得補償制度」「農山漁村6次産業化ビジョン」の実現を掲げる。「現行の品目横断的経営安定対策では自給率は向上しない。麦・大豆の生産をして生活できるような環境を整備する必要がある」と強調する。対する自民党は、米粉用、飼料用の米生産や麦・大豆の生産拡大による「水田フル活用」を推進し食料自給率向上の取組みと、新たな農業政策目標として「農業所得増大」を訴える。



夏季特集 地球温暖化による我が国農業の行方」<1> (季刊特集
 
   「気候変動とエネルギー危機に対応した21世紀型農業の設計」<1> 
      〜気候変動とエネルギー危機が農業に与える影響〜
       北海道大学大学院農学研究院・農学院教授 大崎 満
 
      はじめに
      石油依存農業の終焉
      環境劣化による世界の生物生産(食糧生産)の限界

     
つづく
 
   「地球温暖化が果樹栽培に与える影響の実際」<1>
       農研機構・果樹研究所果樹温暖化研究チーム上席研究員 杉浦俊彦
 
      「近年の気温上昇と農業への影響
      常緑果樹への影響
      落葉果樹への影響
      付表・近年の日本における気温の平年差(年平均気温と平年値の差)の全国平均値
      付表・温暖化が原因で発生・増加している現象がひとでもあるとした都道府県数

     
つづく
 
   「食地球温暖化が農地・農業用水・農業水利施設に及ぼす影響と適応策」<1>
      〜過去〜現在〜将来にわたる気象・水象の推移〜
       農研機構・農村工学研究所農村総合研究部長 高橋順二
 
      これまでの気象・水象の変化
      気温・降水の経年変動
      アメダスデータでみる強雨の変動状況
      将来の気象・水象の変化
      付表・確率降水量と回帰係数
      付表・一定値を超える降雨が観測された地点の割合
      付表・年降水量の変動と予測

     
つづく
 
   「地球温暖化と農業」<1>
      〜今なにが起こっているか〜
       筑波大学生命環境科学研究科教授 林 陽生
 
      地球温暖化に関する国際的なコンセンサス
      影響の兆候と将来予測
      脆弱性の評価
      付表・地域別水稲作況指数の年次変動

     
つづく
 
   「統計的アプローチによる地球温暖化のアジア水稲生産への影響評価」<1>
       埼玉県環境科学国際センター自然環境担当主任 増冨祐司
 
      はじめに
      気候モデルによる気候予測の差異およびそれに伴う影響結果の差異
      統計的アプローチによる温暖化の影響評価
      付表・気候モデルの気候予測を用いた影響評価手法
      付表・5つの気候モデルによる1990年からの平均気温上昇予測
      付表・4つの気候モデルの気候予測を用いた収量変化予測

     
つづく
 
   「水稲に及ぼす温暖化の影響と対策技術」<1>
       農研機構・九州沖縄農業研究センター暖地温暖化研究チーム上席研究員 森田 敏
 
      はじめに
      九州産水稲の収量・品質低下の実態と要因からみた温暖化の影響
      付表・全国と九州の作況指数と一等米比率
      付表・近年の九州産水稲は登熟不良によって減収・品質低下している
      付表・出穂後20日間の日平均気温と登熟関連形質との関係

     
つづく
 
   「気候変化と農業生産」<1>
       農業環境技術研究所上席研究員 横沢正幸
 
      現在把握されている高温の影響
      地球温暖化による影響の将来推計
      付表・気候変化によるコメ収量(Yield)と変動係数(Coefficient of Variation)の変化

     
つづく
 
 
編集室
 
 「2009年夏季特集号」企画特集の統一テーマは、「地球温暖化と我が国農業の行方」としました。地球温暖化が及ぼす農業・水産業への影響変化は多くの研究者によって、相当のレベルまで分析が進んでおります。CO2濃度上昇による光合成促進により、北海道など寒冷地帯等の一部地域では農産物の収穫量が増嵩することが報告されておりますが、地球規模で見ると気温上昇による「負」の影響の方が大きいとの予測が示されております。
 すでに、九州の一部の稲作や、暖地の果樹栽培で地球温暖化の「負」の影響が出始めており、もはや地球温暖化が避けられない中、我が国の農業はどのような途を辿るのか。特集では、地球温暖化に適応する我が国の農業戦略の構築に向けて、国を代表する研究者・専門家の方々に、最新の温暖化予測の研究成果を解説いただき、様々な角度から提案していただきました。
 ここに掲載いたしました諸論考が、地域の温暖化対策とともに、地域農業振興戦略の一助となれば幸いです。
週刊農林編集部