2009年新春特集号
   
 

  

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農林抄 (論説/「食育」から農を応援しよう!)
 
   「食育が変える『農』の未来」
       農林水産省消費・安全局消費者情報官 浅川京子
 
<書き出し> 近年は社会経済情勢が変化し、私たちの食生活をめぐる状況も大きく変化しています。生活習慣病の増加や、家族そろっての食事の機会が減っている(孤食)といった現象が知られていますが、このほかにも、@自ら調理を行わず、外食や総菜で食事を済ませる「食の外部化」が進んだこと、A生産者と最終消費者との間に様々な主体が介在して食べ物が流通しているために、食べ物の生産や流通の過程を知らない消費者が増え、食べ物の大切さや農業など食べ物を生産する活動が意識されにくくなっていること、B日本の食料自給率が2006年に39%に下がったことが注目されます。私たちはこれらの状況が改善されるように食育に取り組んでいますが、食べ物の生産を支える農業、食品産業に対する消費者の理解が深まるように、また、農業活動の場でもある農山村の振興につながるように食育を進めることが必要だと考えています。具体的には、次のことが国民に促されるよう食育を展開しています。・・・



焦 点 「研究開発は経済発展の『礎』」
 
 
 農林水産技術会議は2008年の農林水産研究成果から10大トピックスを選定したが、そのトップの技術開発に世界初.の文字が踊った。そのトップに選定されたのが「蛍光色を持つ高機能絹糸・繊維の開発」、第2位は「産卵海域で成熟した親ウナギの捕獲」で、いずれも世界初.の快挙だ。前者は、農業生物資源研究所が民間との共同研究により、遺伝子組換えカイコによる蛍光色を持つ高機能絹糸・繊維を開発したもので、衰退著しい養蚕業界に光明を与えた。海洋での親ウナギの捕獲は完全養殖研究の急進への途を開くものとして、世界が注目する。新技術開発こそが経済発展の「礎」となることを、忘れてはならない。



新年特集 「「食育」から農を応援しよう!」<1> (季刊特集
 
T 実践的「食育」活動の展開
 
   「食育から日本農業を応援する」<1> 
     〜イギリスの肥満対策に学ぶ〜
       長崎大学大学院准教授 中村 修
 
      先が見えない食育活動
      「成果」の見えない食育
      イギリスの肥満対策に学ぶ

     
つづく
 
   「水産版食育「ぎょしょく教育」の実践と地域の連携」<1>
       愛媛大学南予水産研究センター教授 若林良和
 
      「ぎょしょく教育」とは
      「ぎょしょく教育」の実践
      第7の「ぎょしょく」・「魚織」の重要性
      「ぎょしょく教育」推進のための「魚織」:地域協働システム
      おわりに

     
つづく
 
U 日本農業復活につながる「食育」活動
 
   「食の大切さと喜びを伝える食育」
       青山学院大学教授 三村優美子
 
      日本の“食”をめぐる混乱
      消費者に失われている“食”の知恵と技
      意識変化のもう一つの側面は、
      都市生活者の急増である農業と消費者との繋がりを取り戻すために

     
読み切り
 
V 子どもと一緒に考える「食育」プロジェクト
 
   「なぜ喜多方市小学校農業科がはじまったのか」<1>
       喜多方市教育委員会学校教育課課長補佐・指導主事 渡部 裕
 
      市長の発案
      農業高校での聞きとり
      地域の特色や子どもたちの特徴
      喜多方市小学校農業科の特徴
       (1)実施校の取組み
       (2)行政としての取組み
      小学校農業科に込められた願い

     
つづく
 
   「とくしまみそ汁プロジェクト」<1>
       徳島県阿波市立市場小学校教諭 藤本勇二
 
      はじめに
      実践への手立て
       (1)交流学習による学習支援
       (2)協同作業での授業づくり
       (3)子どもの関心や理解に応じた指導
      小学校教育研究会総合部会に提案し実践
       (1)交流学習を仕組む
       (2)みその仕込みと基本のみそ汁作りから始める
       (3)み・そムリエになる

     
つづく
 
W 農業界が推進する「食育」の展開
 
   「子ども達の農業に対する興味と可能性を広げる子どもファーム・ネット」
       全国子どもファーム・ネット推進協議会事務局 伊藤 悟
 
      中学生に農業の素晴らしさを
      農業体験と交流機能
      「農」の連続性

     
読み切り
 
   「手作りおにぎり」で育つ「農業・農家の応援団」<1>
       農山漁村文化協会常務理事 栗田庄一
 
      小さなおにぎり、大きな一歩
      愛情たっぷりどっしりした子へ
      家族でつくろう、おにぎりの日
      おにぎりに込められた「ありがとう」

     
つづく
 
 
編集室
 
  「2009年新年号」企画特集の統一テーマは、『「食育」から農を応援しよう!』としました。ご承知の通り、食育基本法が05年6月に成立し、「食育を、生きる上での基本であって、知育、徳育及び体育の基礎となるべきものと位置付けるとともに、様々な経験を通じて「食」に関する知識と「食」を選択する力を習得し、健全な食生活を実践することができる人間を育てる食育を推進することが求められている」としています。これ以後、「食育」という新造語が国民に認知され、教育現場をはじめ、全国各地で様々な場面で、多様な主体によって展開されております。
 「食育」について国民の関心が急速に高まっているのは、栄養の偏り、不規則な食事、肥満や生活習慣病の増加、食の海外への依存、伝統的な食文化の危機、食の安全など、これまで潜在化していた食に対する不安≠ェ一挙に表面化したためと言えます。現在、国民の意識調査では、食育に関心を持っている国民の割合は、基本計画策定当時の69・8%から、今年3月には75・1%と飛躍的に向上しています。日頃の健全な食生活を実践するため、「食事バランスガイド」等を食事の参考にしている人は56%に上り、基本計画が目指す60%目標へあとわずかに迫っています。
 「食育」によって食の正しい知識に加え、地域の食文化や農業に地域住民の理解を深めることは我が国農業・農村の活性化にもつながり、極めて重要な戦略の一つに位置づけられます。しかし、食育推進計画を策定している都道府県は20年6月現在で45都道府県あり、残る2県も今年度中に策定する予定にあるのに対し、市町村では272市町村しか推進計画を策定しておらず、策定率はわずか15%しかありません。今後策定する予定がない市町村は4割にも上り、10年度までに半数の市町村の策定を目指す基本計画目標とは大きく乖離している状況です。
 実際の「食育」の現場でも、学校教育現場と農業の連携はまだまだ未成熟で、ノウハウの集積も進んでおりません。言い換えれば、教育としての「食育」と、農業が期待する「食育」がイコールとなっておらず、別のものとして展開されている状況にあります。輸入原材料の高騰や食の安全問題を契機に国内農業や国産農産物を見直す動きが顕著になり、ますます「食育」は重要性を帯びますが、農業振興に果たす煽動役として如何にして展開していくかが、食育活動展開への第2ステージ≠ニなるのではないでしょうか。そこで弊誌新年企画といたしまして、『「食育」から農を応援しよう!』をテーマに、食育による農業・農村の振興に関する施策の展開方向等の戦略構築に向けまして学校関係者や専門家の方々に実践例の検証を通じて、様々な角度からご提案していただきました。
 ここに掲載いたしました諸論考が、地域の食育活動の実践・展開や「食育」を核とした農業振興戦略の構築や、農業振興・地方再生への一助となれば幸いです。

週刊農林編集長