2008年夏季特集号
   
 

 

 

  

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農林抄 (論説)
 
   「新たな食料安全保障の構築」
       農林水産省大臣官房食料安全保障課長 末松広行
 
 
 <書き出し> 農林水産省は、本年4月1日付けで大臣官房に食料安全保障課を設置した。世界的に食料需給の不安定化が懸念されている中、わが課は国際的な食料需給情報の収集・分析、食料自給率の向上、不測時の対応の整備などに取組むこととなる。農林水産省では、一昨年より海外の食料事情は質的に変化が生じつつあるのではないかという判断のもと、昨年初めに「国際食料問題研究会」を開催し、専門家の方々とともに国際的な食料事情の変化について検討を進めた。その過程で、今後は「食料安全保障」という観点で政策を整理する担当課が必要ではないかということになった。穀物価格が急上昇し、設置当初からわが課は様々な対応に追われているところである。
 わが課が担当する第一の業務は世界的な食料需給の分析である。わが国の食料需給分析は、これまでUSDA(米国農務省)やFAO(国連世界食糧農業機関)の情報や分析に頼ってきたが、食料純輸入国という特徴のあるわが国の立場で独自の世界需給予測モデルを構築し、分析能力も強化していくこととしている。貿易業務に携わっている商社や在外公館などとの情報交換・意見交換も通じて、生きた情報を蓄積していきたい。・・・



焦 点 「漁業瀕死の状況を救え!」
 
 
 全漁連、大日本水産会など主要17漁業団体が7月15日、燃油高騰対策を求めて全国一斉休漁に踏み切った。この日、休漁したのは漁船20万隻で、全国一斉休漁は我が国の水産業有史で初めて。同日、東京・日比谷で開かれた「漁業経営危機突破全国漁民大会―燃油価格暴騰から食料・漁民を守れ!」には、3000人以上の漁業代表者が集結。「赤字で漁に出れないぞ!」「国は漁業を守れ!」、さらに「燃油暴騰は激甚災害に匹敵し、瀕死の状況」など、政府に救済策を求めた。与党・自民党も同日、水産関係合同会議を開き、漁業者が安心して出漁できるよう漁業用燃油価格高騰対策に万全な措置を早急に講じることを決議した。



夏季特集「新たな食料安全保障の構築」<1> (季刊特集
 
T 国際穀物需給予測と食料安全保障
 
   「バイオ燃料が国際農産物需給へ与える影響」<1> 
      〜バイオ燃料普及・生産動向〜
       農林水産政策研究所主任研究官 小泉達治
 
      はじめに
      バイオ燃料普及・生産動向
      世界のバイオエタノール生産量の推移

     
つづく
 
   「世界の穀物需給と日本の食料安全保障」<1>
       ユニパックグレイン椛纒\取締役 茅野信行
 
      高値の続く穀物市場
      需給逼迫
      エタノール政策の推進、
      ドル安・インフレ懸念、
      投機資金の流入
      表・米国産トウモロコシ需給見通し
      表・米国産大豆需給見通し
      表・米国産小麦需給見通し

     
つづく
 
U 「食料の未来を開く戦略会議」提言と新たな食料安全保障
 
   「新たな食料安全保障と世界を見る農業の構築」<1>
       宮城大学大学院事業構想学研究科長 大泉一貫
 
      我が国の食料安保の考えは明確
      農政は法律と同じ方向をみているか?
      「農業は衰退産業論」は間違い

     
つづく
 
   「国内資源を利用できない日本食料自給率は向上できるか」<1>
       東京大学大学院農学生命科学研究科教授 鈴木宣弘
 
      「食料危機」をどう捉えるか
      輸出規制の教訓とWTOの欠陥
      過去の経験則通じない穀物高騰
      WTOルールの限界
      不測事態に備え平時から戦略必要
      認識が高まる国産食料の重要性にもかかわらず疲弊する農業・農村
      自給率の低さは支援水準の低さの証
      日本の食料市場の閉鎖性と農業過保護論の誤り

     
つづく
 
   「日本の食料安全保障を脅かすもの」<1>
       経済産業研究所上席研究員 山下一仁
 
      食料危機
      日本の食料安全保障の現状
      食料自給率低下の理由

     
つづく
 
V 新たな視点による食料安全保障
 
   「バーチャルウォーター貿易と水や食の安全保障」<1>
       東京大学生産技術研究所教授 沖 大幹
 
      食料生産の外部依存
      コムギ1`生産に2000g必要
      バーチャルウォーター総量は国内農業用水使用量を上回る
      日本の2000年度におけるバーチャルウォーター総輸入量

     
つづく
 
   「フード・マイレージから考察する食料安全保障」<1>
       農林水産省北陸農政局企画調整室長 中田哲也
 
      サミットと食料自給率
      構造変化する世界の食料需給
      フード・マイレージという考え方
      図1食料の海外依存率の推移
      図2供給熱量の構成変化と品目別の食料自給率(供給熱量ベース)

     
つづく
 
 
編集室
 
  「2008年夏季特集号」企画特集の統一テーマは、『新たな食料安全保障の確立』としました。ご承知の通り、中国やインドなど人口超大国の経済発展等による食料需要の増大や世界的なバイオ燃料の原料としての穀物等の需要増大、地球規模の気候変動の影響による農業生産への影響など需給構造の変化、またファンド資金の投機により穀物の国際価格は高騰し、国内消費を優先して輸出規制を行なう国も増加しつつあります。もはや、投機的資金が引けても、以前の水準には戻らないものと見られています。こうした穀物等の高騰の影響により、国内で販売される食料品では値上げが相次ぎ、いまでは2次、3次の価格改定が行なわれており、国民において「食料安全保障」の問題は強い関心事となってきました。
 新たな食料・農業・農村基本計画では、食料安全保障について「世界的な人口増加や中国を始めとするアジア諸国の経済発展による食料需要の増大、地球温暖化の急激な進行等、世界の食料需給に関する不安定化要因が顕在化してきており、不測時における食料安全保障が重要な課題となっている」と、中長期的な課題として『不測時における食料安全保障』の策定を提言しており、まだまだ当時は食料安全保障の問題は身近な課題とはなっておりませんでした。しかし、そのわずか7年の間に事態は急変し、このままいけば「国際分業論」はもはや成り立たず、世界で穀物争奪戦が繰り広げられることも想定されます。
 こうした状況下におきまして、政府の「食料の未来を描く戦略会議」は世界の食料需給が逼迫傾向を強める中で、国内農業資源の確保、輸入食料の安定確保、主食用・飼料用穀物の備蓄など、逼迫する食料需給の下で、国に新たな食料安全保障の具体策の確立を求める提言をまとめました。そこでは、自給率向上への中長期的・戦略的な取組みとして、@米粉製品の開発・普及A飼料用米の生産B食品廃棄物の飼料化(エコフィード)を提案しました。また、与党・自民党でも福田首相の指示で、「食料戦略本部」が設置され、国内の食料供給体制の整備や海外からの食料の安定的確保など、わが国の食料戦略の再構築に着手しました。
 そこで、弊誌では『新たな食料安全保障戦略の確立』の議論を喚起するため、その先駆として「国際農産物需給の将来予測」をはじめ、戦略会議が示した提言への論評、また食料安全保障を考える上で近年確立された「バーチャル・ウォーター」「フード・マイレージ」論等の新たな視点――など多角的な視点・分析を通じて、新たな食料安全保障≠、研究者・専門家の方々にご提案いただきました。食料確保への危機感が高まっている今、我が国国民の生活を支えるべく日本農業の再建に向けて、これまでの特集以上に熱筆∞激筆≠ウれております。ここに掲載いたしました諸論考が、新たな食料安全保障への確立や地域食料安全保障政策の再考、さらには農業振興への一助となれば幸いです。

週刊農林編集部一同