2007年新春特集号
   
 

 

 

  

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農林抄 (論説/飼料自給戦略への提言)
 
   「飼料自給戦略への提言」
       酪農学園大学経済学科教授 荒木和秋
 
 <書き出し> 日本農業において、今や畜産は最大の産出額を誇る部門である。畜産の成長を支えてきたのはアメリカからの輸入穀物であった。畜産物は高い関税に守られる一方、輸入穀物は無税同然であったことから、日本畜産は国内産飼料への依存度を低め、海外からの輸入穀物に圧倒的に依存する飼料構造が形成されてきた。広大な草地基盤に恵まれた北海道酪農でさえも輸入穀物に依存する高泌乳牛酪農を展開してきた。こうした先進国のなかで類をみない特殊な飼料構造を抱える日本畜産は黒船の到来とも言うべき二つの大問題に直面している。一つはオーストラリアとのFTA交渉の開始決定であり、他は世界の穀物需要の逼迫である。穀物需要の逼迫はアメリカにおけるバイオエタノールの増産と中国における畜産物消費の激増によるもので、これまでの気象変動による年次的な逼迫要因と性質を異にする長期固定的な構造的要因である。両者の展開如何によっては日本の畜産を崩壊させかねない。・・・



焦 点 「ノロウイルスが爆発的流行」
 
 
 例年12月中旬にピークを迎える「ノロウイルス感染」が爆発的な広がりをみせている。厚生労働省は青森、沖縄を除く45都道府県に警報を発令した。国立感染症研究所によると、12月15日現在(11月27日−12月3日)の定点観測における患者報告数は6万5638人と81年に調査を開始して以来、最多を記録した。この風評被害でカキ養殖業者は出荷量が減少、価格も2−3割程度下落し大打撃を受けている。広島県の県漁連と34漁協でつくる「広島かき生産対策協議会」は18日、生食用カキの出荷を自粛し、すべて加熱調理用として出荷することを決めた。松岡農相も19日の会見で、実態把握をし、必要に応じて対策を講じる考えを示した。



新春特集 「飼料自給戦略の研究」<1> (季刊特集
 
T 飼料穀物をめぐる国際需給と価格動向の情勢分析
 
   「飼料穀物の国際需給・価格動向の現状と展望」<1> 
       飼料輸出入協議会専務理事 江藤隆司
 
      収穫期における異常な価格高騰
      市場メカニズムとしての価格機能
      トウモロコシの主要生産・輸出国(米国以外)における需給動向

     
つづく
 
U 農林水産省の飼料自給政策と今後の推進方向
 
   「飼料自給率向上への取組み」<1>
       農林水産省生産局畜産部畜産振興課長 釘田博文
 
      飼料自給の現状
      飼料自給率目標
      表1・飼料の需給の推移〔可消化養分総量(TDN)ベース〕
      表2・飼料作物作付面積の推移
      表3・食料・農業・農村基本計画における目標

     
つづく
 
V 飼料自給率向上への将来ビジョンと戦略的グランドデザインの提案
 
   「飼料自給率の向上に向けた飼料作物品種の開発の現状と展望」<1>
       畜産草地研究所・草地研究支援センター長 杉田紳一
               飼料作物育種研究チーム長 水野和彦
 
      はじめに
      重点化すべき飼料作物
      これからの新育種技術

     
つづく
 
   「わが国における飼料自給戦略」<1>
      〜飼料自給率の向上が迫られる背景〜
       宮崎大学農学部教授 杉本安寛
 
      大打撃与えた96年飼料穀物高騰
      輸出量超える米国のエタノール向け飼料生産
      中国も数年後に飼料輸入国
      粗飼料多給型転換へ規制撤廃を付表・飼料の輸入に伴う資源移動と環境問題

     
つづく
 
   「日本の飼料自給戦略に関する生態学的考察」<1>
       宮崎大学農学部附属
       自然共生フィールド科学教育研究センター教授 西脇亜也
 
      日本の飼料自給の現状
      持続可能なシステムか?
      持続可能なシステムに不可欠なチェック機構の不備
      飼料自給率を高めるためには?
      自給粗飼料の需要について
      放牧について

     
つづく
 
   「自給飼料基盤に立脚した畜産経営とは何か」<1>
       九州大学大学院農学研究院助教授 福田 晋
 
      自給飼料増産推進計画と自給飼料増産運動
      自給飼料基盤に立脚した畜産経営とは何か
      家畜排泄物の適正処理の制約と自給飼料増産

     
つづく
 
   「生産現場から持続可能な畜産を展望する」<1>
       北里大学獣医畜産学部教授
       フィールドサイエンスセンター長 萬田富治
 
      はじめに
      飼料自給率を高めるための基本的視点は何か
       (1)中小家畜について
       (2)大家畜について

     
つづく
 
 
編集室
 
 2007年新年号企画特集の統一テーマは、『飼料自給戦略の研究』としました。
 ご承知のように原油高騰を背景にアメリカ政府は05年、エネルギー政策法を制定し、エタノールを主とするバイオ燃料生産を2012年までの6年間に約2倍増の2839万klまで拡大する目標を掲げ、各種支援策を打ち出し推進を加速しております。これにより燃料エタノール需要向けトウモロコシ生産は2-3割増と急増し、07年にはエタノール向け需要量がトウモロコシ輸出量を上回ると予想されています。これをはやしてシカゴ相場は11月に5割も高騰し、日本畜産に大打撃を与える史上最高値となった96年の相場展開に似た様相を呈しつつあります。米国内の畜産向け需要や他の輸入国とも競合し、日本向け輸出量が漸減、数年後には輸出がストップし、メガファームなど畜産農家の倒産が続出するのではないかとの観測さえ出始めております。
 しかし、こうした飼料穀物・畜産業をめぐる国際情勢の激変、危機迫る予兆にもかかわらず、国内畜産業界の認識は鈍く、ドップリと輸入濃厚飼料に依存した生産構造となった結果、飼料自給率は25%まで低下し、このままの飼料供構造、家畜飼養構造を続けていけば、大きな打撃を受ける可能性があります。弊誌では、こうした国際情勢や国内飼料・畜産状況に危機感を強め、警鐘を打ち鳴らす意味も込めて、『飼料自給戦略の研究』を立ち上げ、提案することにしました。この研究の戦略目標は、「加工畜産」の汚名を返上するためにも、輸入濃厚飼料依存から脱却し、反芻動物本来の飼養形態に還り、国内資源を最大限に効果的・効率的(省力化・コストダウン)に利活用した安全安心な飼料生産による畜産物を消費者に提供する飼料供給構造・飼養システム(濃厚飼料多給型から粗飼料多給型飼養形態への転換)に改革し、新たな飼料供給・飼養システム体系を確立し、粗飼料100%を最優先に飼料自給率を向上し、資源循環・環境創造型畜産業を構築・振興していくことにあります。
 こうした戦略的観点から戦略目標を達成するための飼料自給戦略の全体的な構想として、研究者・専門家の方々に飼料生産の在り方に関わる将来ビジョンをコンテとして描いていただき、それを実現するための戦略的、計画的なグランドデザインを提案していただきました。そのうえで個別具体論として、耕畜連携強化による稲藁の活用、大豆や麦の生産に適さない不耕作型転作田等の水田利用による飼料用稲を含む飼料作物の作付け拡大や発酵粗飼料化、山地や林地、耕作放棄地、不作付水田など豊かな草資源類を活用した放牧=草地畜産の復活・奨励・普及拡大、乳肉・林畜複合経営の確立、これらに必要な優良飼料用植物の品種改良・開発戦略、食品残渣の飼料化、家畜排泄物の農地への還元やバイオマス化等利用など、自然・有機畜産を含む資源循環型畜産の確立、コントラクター育成による飼料生産の組織化・外部化の推進等、多岐にわたり提案していただきました。
 ここに掲載しました諸論考が激変が予想される飼料穀物情勢に対応した飼料自給戦略や地域の戦略的な飼料・畜産対策の構築、飼料・畜産経営者の経営戦略の立て直しの参考となり、日本畜産業発展への一助となれば幸いです。

週刊農林編集部