2006年1月5日号
   
 

 

 

  

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農林抄 (論説/大豆自給戦略への提言)
 
   「食用大豆の自給率向上の課題」
       女子栄養大学大学院客員教授・国産大豆安定供給懇談会座長 高橋正郎
 
 大豆について案外知られていないことが多い。自給率が4%と低いのは、需要量の76%を占める油糧用の大豆(遺伝子組換え)の自給率がほとんどゼロで、この分野では国産品は到底太刀打ちできないこと。ならば、豆腐、納豆、味噌などの食用大豆だけでも自給すべきであると考えたいが、しかし、それには、歴史的経緯もあって、大豆の輸入関税はゼロで、国産大豆は、アメリカ、カナダ、ブラジルなどの輸入大豆と、素手で競争しなければならないのである。それでは、とても生産コストが10倍もかかるわが国の大豆生産は成り立たないと、早い時期からその生産条件格差を緩和させるための直接支払が大豆ではとられてきた。大豆交付金制度がそれである。大豆生産者に、たとえば平成14年産大豆では、60キロ当たりの販売価格4815円に対して8280円の交付金が、国庫、すなわち税金から支払われているのである。その上、水田転作で大豆生産を行なう場合、転作奨励金が上乗せされる。そのような、保護政策のうえで、わが国大豆生産は成り立っている。・・・



焦 点 「WTO香港閣僚会議が閣僚宣言採択」
 
 
 WTO香港閣僚会議は12月18日、閣僚宣言を採択し、閉幕した。閣僚会議では、@すべての形態の輸出補助金を13年までに撤廃A後発途上国産品に対し08年までにタリフラインの97%以上の無税無枠を供与B綿花の国内支持を一般品目以上に削減することに合意し、宣言に盛り込んだ。日本の最大の関心事である上限関税については言及されず、重要品目も「関連するすべての要素を考慮に入れて」、その「取り扱いに合意する必要性を認識する」と表現され、引き続き日本の主張をしていく足がかりを得た。また06年中の交渉終結に向け、4月末までにモダリティを確立し、7月末までに譲許表案を提出することで合意した。



新春特集 「大豆自給戦略の研究〜食料自給戦略研究の一環として〜」<1> (季刊特集
 
   「脆弱化する世界の大豆市場」<1> 
       丸紅経済研究所副所長 柴田明夫
 
      限界が見えてきたブラジルの大豆生産
      拡大する中国の大豆輸入
      国際市場の大波をまともに被らないために
      付表1・南米の大豆生産
      付表2・中国の大豆輸出入の推移

     
つづく
 
   「大豆畑トラスト運動」
      〜8年の成果と課題〜
       遺伝子組み換え食品いらない!キャンペーン事務局 小野南海子
 
      運動の広がり
      課題は消費者の参加
      生産者・消費者の交流
      加工品の取り組み
      不安定な大豆生産

     
読み切り
 
   「大豆自給率向上に向けた経営革新の方向と条件」
       (独)農研機構中央農業総合研究センター
        関東東海総合研究部総合研究第1チーム長 梅本 雅
 
      はじめに
      大豆生産振興に向けた経営革新の方向
      大豆作における経営革新に向けた制度的条件
      付表・国産大豆の販売数量、入札価格、作付面積の変化

     
読み切り
 
   「食用大豆自給率向上の戦略課題」<1>
       東北大学大学院農学研究科教授 工藤昭彦
 
      解決したい需給のミスマッチ
      田作大豆の技術革新
      市場のシグナルを感知しやすい流通改革

     
つづく
 
   「市場のシグナルを感知しやすい流通改革」
      〜大豆300A研究センター4年間の成果〜
       (独)農業・生物系特定産業技術研究機構
        中央農業総合研究センター関東東海総合研究部長 有原丈二
 
      湿害の克服
      土壌型に応じた耕耘法
      土壌肥沃度の向上
      青立ち対策
      雑草および病害虫防除
      収穫ロスの低減
      豆腐加工適性
      最後に

     
読み切り
 
   「際だって豊富な大豆の栄養・健康機能性成分」
       (独)農研機構近畿中国四国農業研究センター
        特産作物部成分利用研究室長 関谷敬三
 
      タンパク質
      脂質
      炭水化物(糖質)
      ビタミン
      ミネラル
      食物繊維
      イソフラボン
      サポニン
      フィチン酸
      植物ステロール
      アントシアニン
      地球環境にもやさしい
      脂肪細胞とイソフラボン

     
読み切り
 
 
編集室
 
 2006年新年特集号の統一テーマは、『大豆自給戦略の研究』としました。04年夏季特集号で立ち上げました『食料自給戦略の研究』の一環として、自給戦略にとって米に次いで重要な戦略的品目である大豆に焦点を当て、その戦略的研究・提案をしようとするものです。ご承知のように大豆の国際市場は、アメリカとブラジルが独占的な輸出シェアを占める偏頗な貿易構造にあり、その国際需給は特定輸出国の作柄変動等による影響を受けやすく、1973年に起こったような食料危機がいつおきてもおかしくない、不安定な需給・価格構造にあります。その「台風の目」は中国です。大豆の消費量が世界全体の2割、貿易量の3割を占める世界最大の純輸入国に転じた中国は、一昨年8月から国際価格が急騰したことに慌てて大量買付けに走ったために、昨年3月にシカゴ相場は73年来の10.56ドルまで高騰しました。幸い米伯が作付けを増やし作柄もよかったことから危機は回避されました。しかし、世界最大の人口大国であり、高度経済成長を支えるため、石油など産業資源だけでなく農業・食料資源である農地を中南米で買いあさっており、世界の穀物需給の大波乱要因として大きな影響を強めようとしております。こうした危うい大豆の国際情勢、需給・価格構造の中で、世界最大の農産物純輸入国・日本は、大豆の自給率がわずか4%(食用16%)でしかなく、輸入先を米伯等4カ国に依存する脆弱な輸入・供給構造にあり、いつ起こるかもしれない需給・価格、安全性リスク(遺伝子組み替え大豆の輸入等)に晒され、食料安全保障が脅かされております。ところが、新たな食料・農業・農村基本計画では、大豆の自給率目標は6%、食用は24%、03年より2ポイント引き上げようというものです。政府の食料安全保障認識とはこの程度のものかと疑いたくなる、生産拡大意欲を萎えさせるような目標です。米麦と違い、幸いなことに豆乳ブーム等に支えられて国産大豆に対する需要は強く、品質・コスト・安定供給などニーズに即応できれば、食用大豆は趨勢的には18万トン、5割増の40万トン程度生産可能で、昭和30年に50万トン超の実績もあり、自給率を45%程度まで引き上げることは可能と考えられます。したがって戦略目標として15年の食用大豆自給率目標は、新基本計画よりもう一段高い45〜50%を目標とすべきです。この戦略目標を達成するためには、国内食用大豆市場で品質・価格両面で競争力を強化し輸入品から市場を奪回する戦略を構築する必要があります。それには用途別に消費者・実需者ニーズに即応した安全で高品質、高単収・低コスト、気象変動に対応し安定供給できる生産・流通・市場・販売体制、供給構造を構築しなければなりません。このために必要な生産・担い手・経営・農地・価格・所得・流通・市場・販売に係る政策・制度改革、消費者・実需者ニーズ・市場動向に即応できる経営革新、技術革新などイノベーション、国民の健康増進に寄与する大豆の栄養・機能性成分の解明と、その食生活改善への普及・利用、製品開発など消費拡大戦略を
構築し、展開する必要があります。こうした戦略的観点から、既存の政策・制度的枠組みにとらわれない自由な発想、戦略的思考、広い視野、多様な視点からご提案を頂きました。刺激的な諸論考が大豆の自給率向
上論議を改めて巻き起こし、大豆産業の構造改革論議を深化させ、大豆自給戦略が構築、強力に展開され、強い農業再生の契機となることを期待するものであります。

週刊農林編集部