〔週刊農林24年8月5日号〕夏季特集「国民一人一人に食料を届ける」〈1〉



2024年8月5日号
 


 

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 焦 点 農作業中の熱中症搬送者が急増
 
 
 7月に入って農作業中の熱中症による救急搬送者が急増している。農林水産省によると、7月1日〜21日の3週間で農林水産業の作業中に救急搬送された人は570人に上る。前年同期比(7月3日〜7月23日)では35%増(148人増)となる。熱中症の症状には、@夏の暑い環境下で起こる立ちくらみ等の「熱失神」A痛みを伴う痙攣等の「熱けいれん」B脱力感、疲労感、めまい、頭痛、吐き気等の「熱疲労」、そして最も深刻で重度な「熱射病」は、意識障害に陥り、進行すると昏睡状態になる可能性もある。熱中症は早期発見、対処が大切になるため、単独作業は避け、作業者同士で異常がないか定期的に確認するよう呼びかけている。
 
 農林抄(論説)    著者リスト
 
   持続可能な地域社会実現へ緊急提言
       全国町村会
 
 
 人口戦略会議から新たな地域別将来推計人口に基づく「消滅可能性自治体」等の分析結果リストが公表された。このリストは20歳から39歳の女性人口が半減するという一面的な指標をもって、「消滅」という過激な言葉で線引きするものであり、住民の不安やあきらめ、分断をもたらしかねないものであり、極めて遺憾である。・・・続きは本誌で
 
 夏季特集 国民一人一人に食料を届ける〈1〉     (季刊特集著者リスト
           〜食料品アクセス問題への助言〜 
 
   食料品アクセス問題の要因、実態、これから〈1〉
      ―食料品アクセス問題の経緯と要因―
       中村学園大学栄養科学部フード・マネジメント学科教授 藥師寺哲郎
 
      経緯
      買い物難民、買い物弱者、食料品アクセス問題
      食料品アクセス問題の要因

     
つづく
 
   鉄道車輛を移動式スーパーに仕立て上げた「買い物列車」の可能性〈1〉
       東京都市大学都市生活学部准教授 西山敏樹
 
      買い物列車を考えた背景と筆者の目標
      「走るスーパー・買い物列車」の概要
      通勤用鉄道車輛を援用した理由
      第1回目の実証実験までの流れ
      第1回目の実験結果

     
つづく
 
   2020年食料品アクセスマップと困難人口の推計について〈1〉
       農林水産省農林水産政策研究所食料領域上席研究官 高橋克也
 
      食料安全保障における食料品アクセス問題
      統計類と推計方法の変更
      2020年食料品アクセス困難人口と特徴

     
つづく
 
 農林水産トップニュース
 
 〔経営・構造〕 政府が一貫パレチゼーションを実現へ標準仕様パレットの規格を決定

 〔畜 産〕 高病原性鳥インフル死体の化製処理が可能に。鳥インフル監視強化区域を新設

 〔米麦・食品〕 農水省がコメ新市場開拓等促進事業に多収品種作付割合目標を設定

 〔畑作・果樹〕 農研機構と東北大学がN2O削減能力を有する根粒菌の謎を解明

 〔林 野〕 農水省によると23年の外国法人・外国人による森林取得面積が134f

 〔水 産〕 FAOが温暖化効果ガス高排出シナリオで21世紀末に48カ国・地域で漁獲量3割減
 
 編集室【特集にあたって】
 
 
 改正食料・農業・農村基本法は、基本理念において「食料安全保障の確保」を新たな柱として位置付け、国民一人一人が合理的な価格で安定的に供給される良質な食料を入手できるようにすることを謳いました。さらに、食料の安定供給の確保に関する施策の見直しにおいて、「食料の円滑な入手の確保」(第19条)が新設されました。そこでは、国が地方公共団体、食品産業の事業者その他の関係者と連携し、地理的な制約、経済的な状況その他の要因にかかわらず食料の円滑な入手が可能となるよう、食料の輸送手段の確保の促進、食料の寄附が円滑に行われるための環境整備等を講ずることが示されました。
 しかし、現下の我が国の経済状況をみると、経済成長は停滞し、世帯所得は1997年から2018年の間に約18%減少し、平均所得額以下の世帯割合が増加しております。とくに、所得200万円以下の世帯割合が増加し、我が国の貧困率はOECDの中でも高位にあるなど、経済的理由により十分な食料を入手できない者が増加しています。この一方で、食料を届ける力の減退も深刻化しております。食品流通は約97%をトラック輸送に依存していますが、トラックドライバー不足により、2030年には輸送能力の約2割が不足し、「物流2024年問題」の影響とあわせて、輸送能力の約3割が不足する可能性もあるというNX総合研究所の推計もあり、食品流通に支障が生じる懸念が高まっております。
 農林水産省の基本法検証部会は、我が国における食料品アクセス問題を「都市部と比べて生活環境の整備等が立ち遅れている山間地等で人口減少・高齢化が先行して進むことから、このような地域への配送や当該地域での小売等の採算が合わなくなり、スーパー等の閉店が進むこととなった。この結果、高齢者等を中心に食料品の購入や飲食に不便や苦労を感じる方、いわゆる買い物困難者等が増加している。このような食品アクセスの問題は、当初は中山間地等の問題として認識されていたが、現在では都市部でも発生し、まさに全国的な問題となっている」と分析しております。
 トラックドライバー不足が深刻化し、将来的な輸送能力不足が指摘される中、産地から消費地まで農産物・食品を輸送する幹線物流の持続性確保が課題となっており、このままでは買い物困難者等の食品アクセスに困難を抱える者が全国的に増えていく懸念があります。我が国はすでに、「平時から食料を確保し、すべての国民が入手できるようにする」というFAOが定義する食料安全保障の問題に直面している状態にあります。
 そこで弊誌では、2024年夏季特集といたしまして、「国民一人一人に食料を届ける〜食料品アクセス問題への助言〜」を企画いたしました。食料品アクセスの問題では、経済的理由により十分な食料を入手できない者、過疎化や地域経済の衰退により食料入手が困難な者、さらには食品物流の弱体化など、様々な課題が山積しております。人口減少・高齢化社会が進展する中において、都市部を含めた買い物困難者等の解消に向けて、改正食料・農業・農村基本法が謳う国民一人一人≠ヨの食料品アクセスの実現に向けて、ここに掲載いたしました諸論考が農業振興・地方再生への一助となれば幸いです。

週刊農林編集部一同