よくわかるマニフェスト(農林漁業を中心に)
 
政民営化法案の賛否か、それとも年金・福祉か――自民・民主の政権争奪をかけた争点づくりが争点となっている第44回総選挙が8月30日公示、9月11日投・開票されることになった。その中で農林水産政策の最大の争点は、新基本計画の柱である日本型直接支払制度の仕組みとその対象の範囲だ。政府与党である自民党は、民主党マニフェストを意識して、その対象を「地域農業を支える経営」とぼかした。農村部に食い込み政権奪取を狙う民主党が米・麦・大豆など重要品目別に「すべての販売農家」を対象として1兆円程度の「直接支払い」をすると対抗軸を立てたからだ。しかしながら、品目別か品目横断かなど具体的仕組みや対象となる担い手の要件・範囲などをめぐる政策論争にまで深まっていない。大きな焦点とすべき環境創造型農業振興政策については、直接支払制度を導入し有機・減農薬栽培農家を倍増する公約を公明党が掲げ、共産・社民両党も有機・減農薬農業の支援・推進を掲げた。地球温暖化森林吸収減対策などの財源となる環境税については、民主党が「地球温暖化対策税」を創設し新エネルギー予算を1・8倍に増額するとしたが、自民党は、今後の議論として明示していない。農林予算・補助金改革にかかわる地方分権については、自民・公明与党が06年度まで税源移譲3兆円規模の三位一体改革を実施、07年度以降は国と地方の税源比率を1対1となるようめざすとしたのに対し、民主党は9割の18兆円の補助金を廃止し、5兆5千億円を税源移譲、12兆5千億円は「農業・環境」など五つの括りの一括交付金に改める構想を提案、対立軸としている。


 郵政民営化関連6法案が参院本会議で否決されたため小泉首相が衆院を解散、8月30日公示、9月11日投・開票されることになった今回の総選挙は、郵政民営化法案に賛成か反対かを争点としたい小泉首相率いる自民・公明与党と、年金・福祉などこれ以外の問題に争点を持っていきたい民主・共産・社民等野党との政権争奪をめぐる争点づくりが大きな争点となっている。その中で農林水産政策における最大の争点は、新たな「食・農・村計画」の柱である日本型直接支払いである品目横断的な経営安定対策の是非だ。政府与党の自民党は品目横断的な「経営所得安定対策」の対象となる担い手を「地域農業を支える経営」と、秋に具体的に詰めることになっていることに加え、民主党のマニフェストを意識して、明確にせずぼかした。同じ与党・公明党は、@効率的な経営体A効率的経営をめざす意欲ある担い手B効率的で一体性が高い集落営農と自民党よりは明確だが、具体的基準・要件を示していない。

 一方、政権奪取に向け農村地域への浸透を狙う野党第1党の民主党は、政府・自民党に対抗して「すべての販売農家」を対象とする1兆円程度の「直接支払い」を提案した。総額1兆円のうち5000億円を国の直接支払いとして米・麦・大豆・雑穀・菜種・飼料作物など重点品目を対象とし、残る5000億円は地方分権推進の観点から地方に交付し、地方自治体が地域の農業の実情を反映した直接支払いができるようにするというものだが、具体的な仕組みが明らかでない。共産党は米「改革」を中止し、政府の100%拠出によるコストに見合う生産者目標価格60キロ当たり平均1万8000円程度となる「不足払い制度」の創設を提案しているが、不足払い制度がWTO協定に違反する恐れについての説明がない。社民党は「直接所得補償制度」の創設を掲げているものの、具体性がまるきりない。

 この秋にも具体的内容を詰めることになっている政府の品目横断的経営安定対策をタタキ台として、品目別かそれとも品目横断か、具体的な直接支払いの仕組み、その交付対象となる担い手の基準・範囲、要件について噛み合った政策論争に発展、深まった議論になっていないのは残念といわなければならない。第2の争点である食料自給率を柱とする食料安全保障については、自民党がカロリーベースの食料自給率45%達成をめざし、新基本計画に基づき食料供給力を確保し、生産性の向上、食育や地産地消、食品産業との連携、農林水産物輸出を09年に6000億円に倍増する政府方針そのものを公約とした。公明党は食料自給率50%引き上げることをめざす。民主党は、食料自給率を政権獲得後10年で50%まで引き上げ、将来は60%以上にすることを目標に掲げ、農地面積470万fの確保、強制減反の廃止、米の備蓄300万d体制で食料安全保障を確立することを公約とした。共産党は食料自給率を早期に50%台に回復する。社民党も食料自給率を当面50%まで高めるとした。

 食の安全・安心政策については、民主党が内閣府・農水省・厚生労働省にまたがる食品安全行政の一体化と主要な食料輸出国を調査する国際食品調査官の配置を掲げた。食の安全にかかわる資源循環・環境創造型農業振興政策については、公明党が環境保全型農業に直接支払いを導入し、有機・減農薬栽培農家の倍増を掲げたほか、共産党が有機農業など生態系と調和した生産への支援、社民党が有機・減農薬農業の推進を掲げた。バイオマスなど自然エネルギー対策については、民主党は温室効果ガス削減長期計画を策定し、新エネルギーの技術開発や再生可能エネルギー普及促進に「地球温暖化対策税」を導入、新エネ関連予算を1・8倍増の3000億円に増額するとぶち上げたのに対し、支持母体の経済界や経済産業省が反対していることを背景に自民党は、京都議定書目標達成計画に基づき再生可能エネルギーの導入促進、バイオマス由来燃料・水素の技術開発を促進するというに留め、今後の議論として環境税導入の是非を公約から外している。

 林業政策では、自民党が京都議定書目標達成計画の推進に森林の環境資源面を重視した政策、「緑の雇用」、木材利用の拡大推進を挙げたのに対し、民主党は10年間に年間1000億―2500億円を投じ、1000万ヘクタールの森林を再生する「みどりのダム」事業に転換し12万人の雇用増を創出すると提案。

 漁業政策では、自民党が燃油高騰対策資金融通の円滑化、資源回復計画の着実な実施を通じた水産資源の持続的利用確保を図り水産業・漁村を再生しつつ、その多面的機能の発揮に積極的に取り組むとしたのに対し、民主党は水産物自給率を回復するため、魚介類の産卵場である「海藻による海中の森」を造成し水産資源回復を図るとの対案を示した。

 農業予算・補助金、財源、権限に係わる地方改革・地方分権については、自民党は06年度まで税源移譲3兆円規模など三位一体改革を確実に実施し、財政力格差不拡大に地方交付税で対応する。公明党も約3兆円規模の税源移譲に加え、06年度以降に国と地方の税源比率が1対1となるよう改革を進めると公約。これに対し民主党は@約20兆円の補助金の9割、18兆円を廃止し、うち5兆5千億円を税源移譲するとともに、12兆5千億円は「農業・環境」など五つの括りの一括交付金に改め、その括りの中で地方が自由に使途を決定できる財源とするA市町村間の財源格差を調整する「財政調整制度」を構築するとの対立軸を立てている。

 今回の総選挙の特徴は、自民党の農林議員有力者の多くが郵政関連法案に反対したため、党公認を得られず、無所属で「刺客」と称される対立公認候補との戦いを迫られる異例の選挙戦が展開されていることだ。野呂田芳成・総合農政会長、松下忠洋・農業基本政策小委員長、今村雅弘・農林部会長、森山裕・畜産酪農対策小委員長、保利耕輔元文相、江藤拓氏など。結果として、有力者の当落、自民党農林議員の増減がどうなるか、そのことが農政にどう影響してくるか。とくに農業構造改革の帰趨を制するとも言われる日本型直接支払い制度や新たな米の需給調整システムの制度設計の詰めを控えていることに加え、政府の規制改革・民間開放推進会議が中間取りまとめで提案を検討しているJAグループ事業の分割を認めるか否かも絡み、大きな焦点となっている。