2001年夏季特集号
 

  

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農林抄 (論説/農業構造改革とセーフティネットへの提言)
 
   「水田農業の構造改革とセーフティネット」
       東京大学大学院教授 八木宏典
 
 わが国水田農業の構造再編を考える場合、@これからの国際環境の中で、安全性、品質、コスト低減を追求した米作が必要となるA高齢化や人口減少によって将来の大幅な米需要増加は見込めない、という点を前提にする必要がある。現在でも、米作で他産業並み農業所得を確保するためには十五〜二十ヘクタール程度の規模が必要であり(全算入生産費は1万3千円程度/60キログラム)、これらの経営が少なくとも米作の過半を担う構造への転換が必要になる。・・・



特 集 農業構造改革とセーフティネット<1>
 
   「真の担い手を考える」 
       経団連産業本部産業基盤グループ長 井上 洋
 
      株式会社展開へ農地法再改正を
      プロ農家に直接所得補償を

     
読み切り
 
   「まず農産物市況改善を」<1>
       東京農工大学前学長・現名誉教授 梶井 功
 
      離農米価水準は1万620円
      満足な地代に1万8000円以上
      付表1・米生産費の階層比較(全国)
      付表2・3〜5ヘクタール層の余剰が下層農家の所得を上回る米価

     
つづく
 
   「農業の構造改革とは何か 〜経営資源の流動化と組み替え編成〜
       拓殖大学国際開発学部教授 叶 芳和
 
      ピカピカの日本農業誕生か
      借地と外国人労働力の組合せ
      農協の不良債権
      農水省ビジョンは砂上楼閣か

     
読み切り 
 
   「ドイツ農業の構造改革」<1>
       明海大学経済学部教授 高山隆子
 
      自給率を維持しているドイツ農業
      エルトルプランにみる選別政策の選択(70年代ドイツ農業)
      付表1・経営規模別農業経営数(旧西独地域)
      付表2・農用地面積(旧西独地域)
      付表3・総合自給率(旧西独地域)
      付表4・品目別自給率(ドイツ)
      付表5・食糧農産物の貿易(旧西独地域)

     
つづく
 
   「構造改革の好機到来。骨太の改革を!」
       社会基盤研究所首席研究員 藤澤研二
 
      「最後」の、そして「絶好」のタイミング
      一律から多様へ
      稲作の構造改革とは何か
      「農地集積」を「生産性向上」に結び付ける
      選択的減反制度への移行

     
つづく
 
   「骨太な農業構造改革のために農地法改革を」
       成蹊大学経済学部教授 本間正義
 
      はじめに
      経営政策と構造改革
      平成の農地法改革
      市場原理と政策支援

     
読み切り
 
   「アメリカ及びカナダの農業経営安定対策と農業構造」
       農水省農林水産政策研究所政策評価研究室長 吉井邦恒
 
      はじめに
      アメリカの農業経営安定対策
      カナダの農業経営安定対策
      アメリカ及びカナダの農業構造
      おわりに
      付表1・アメリカの農業経営類型別シェア
      付表2・日本の農家類型別シェア

     
読み切り
 
 
 
編集室
 
  東西両ドイツの統一、ソ連の崩壊で戦後の世界政治経済の枠組みであった冷戦体制が崩壊。これと軌を一にして日本ではバブル経済が崩壊。日本の政治・経済・社会のあらゆる面で、戦後体制、戦後神話が音をたてて崩れ、いま「失われた10年」という言葉に象徴される出口のない、閉塞感のなかで喘いでいる。日本農業も例外でなく、いま、構造的危機に瀕している。戦後農政の枠組みの崩壊である。いまこそ、この戦後農業の構造的危機を21世紀の日本農業の新たな発展に繋がる、再生・再構築のチャンスと捉え、構造改革・再編を進めていかなければならない。それには、戦後農政の枠組みを打破し、新たな政策・制度的な枠組みを構築し(農政改革)、歴史的な日本農業の桎梏である零細・兼業構造を打ち破る「創造的破壊」(農業構造改革)が必要である。それにより夢と希望を持って自由闊達な農業経営活動が行える環境を保証しなければならない。 それには、最も保護され、かつ最も不自由であるがゆえに、最も構造改革が遅れた、日本農業の基幹である米作・水田農業の政策・制度的枠組みの規制改革を行うことが必要である。すなわち適地で、かつ米を作りたい農業者が思い切って米を作れるよう、画一的な減反政策を止め、選択的減反政策に転換することである。それを梃子として、農地、農作業、生産など農業諸資源が担い手農家に集積し、米作・水田農業構造が改革・再編され、日本の米作・水田農業の担い手が育成・確保される。経営規模拡大による生産性の向上や自然・有機農業など環境保全型農業の展開・拡大により、競争力のある米作・水田農業構造が確立されるのである。日本農業が最も得意分野とし、最も潜在的生産力の高い米作農業を輸出産業とし得る将来展望も拓けてくるのである。 遅ればせながら「聖域なき構造改革の断行」を標榜する小泉内閣が誕生し、「農業構造改革」を提言した武部農相私案が小泉内閣の改革方針である「骨太の方針」に盛り込まれた。小泉内閣・武部農政が構造改革に値する農業構造改革を本気で断行しようというのであれば、いまこそ長年の政治的課題であり、タブーだった、「創造的破壊」としての選択的減反政策への転換を政治決断すべき秋である。 こうした問題意識から今年の夏季特集号の企画統一テーマは、〈最も構造改革が遅れ、かつ中心的な農政課題である米作・水田農業構造改革を基軸とする農業構造の改革・再編をどのように進めていくのか、それに伴うリスクをマネージメントするセーフティネットをどのように仕組んでいくべきか〉――『農業構造改革とセーフティネットの構築』――としました。 その柱は、@日本農業の構造改革・再編をどのように進めていくべきかA今後、農業を中心的に担う農業者・組織に重点的に集中すべき体系的な経営対策はどうあるべきかB経営対策の一環として、総合的・体系的な価格・所得政策を軸とするセーフティネットをどう仕組み、構築すべきかC経営対策や新たなセーフティネットの対象とならない兼業農家や自給的農家層等を食料・農業・農村において、どの様な役割として位置づけ、別途、どのような社会・福祉政策的支援、農村振興対策等を行うべきか、というものです。 本誌で提案された専門家の方々の刺激的なご提案が、今後の農業構造改革やセーフティネット構築に向けて、議論を喚起し、政府の政策形成の一助になれば幸いです。

週刊農林編集部